あんなこんな名盤から知る人ぞ知るカルト盤まで、幅広くリリースされている2023年再発盤事情。まさしく再発レーベル戦国時代。そしてその裏では、その音楽に対して何かしらの強い「想い」がないと乗り越えられないほどの、とんでもない労力がかかっている人たちが多く関わっていると思うのです。そんなレーベルや制作に関わる人にちょっと話を聞いてみる企画が、この「LABEL ISSUE」。

1回目は『First On Vinyl』をピックアップ、キュレーター/マスタリングエンジニアとして関わる Calm さんに話を伺いました。そして第2回目の今回は、スペインのレーベル『Urpa i musell』に話を聞いてみました。話題になっていた時期にオンタイムでリイシューされた「Carlos Maria Trindade / Nuno Canavarro ? Mr. Wollogallu」や、独自の審美眼でスペイン国内のトラディショナルでコンテンポラリーな楽曲を中心に、新旧問わずリリースしているレーベルです。シレンシアでもその音楽性に共鳴し、何度も仕入れさせていただきました。実はこのレーベルを主宰するスタッフが働いているレコードショップ「Discos Paradiso」はシレンシアのごく初期の頃からお世話になっていて、EU買付の際は必ずバルセロナを訪れていろいろ教えてもらった経緯があるのです。

さてさっそく、インタビューへ進みます。たくさんの想いが溢れてる長文。訳すのに時間がかかりました、、ニュアンス変えずに言い方を変えるのって難しいですね、、多分これで大丈夫かと思います。翻訳ソフトも使ったので、少し不自然な言い回しのところはご勘弁を。まずはレーベルの由来と最初の一言から。

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「Urpa i musell」(カタルーニャ語で「鼻」と「爪」の意味)は、スペイン/バルセロナのレコード店 Discos Paradiso で、食事、飲み物、コーヒー...時にはショットなど...長いランチタイムの会話の中で、無意識のうちに何年もかけて考案されたレコードレーベルです。アルナウ、ジェラール、イグナシがテーブルを囲み、その3人でイニシアチブを共有し、すべてのアーティスト、友人、協力者、知人、そしてまだ見知らぬ人たちも含め、みなさんのおかげで実現することができたプロジェクトです。そのすべての人たちに感謝しています!

レーベルとして、私たちは自分たちが愛する音楽をすべての人に届けたいと思っています。いつ、どこでレコーディングされたかは関係ありません。私たちが音楽を世に送り出す過程を楽しんでいるのと同じくらい、みなさんが私たちの仕事を楽しんでくださることを願っています。

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ここからがインタビューです。


----レーベルのコンセプトは何ですか?

Urpa i musell: Urpa i musell にはコンセプトがまったくないんです。私たちが持つ唯一の考えは、あらかじめ決められたようなパターンを意図的に避けることです。レーベル設立当初から、刺激的なサウンドを生み出す可能性のあるものすべてにオープンでありたいと思っています。

アルナウとジェラールはバルセロナの Discos Paradiso のオーナーで、(イグナシも含む)関わるスタッフ3人ともレコードを集めています。

そしてその集めた音楽の中からのアーカイブ作業が次のステップとなりました。『Molforts - "Les músiques per a Albert Serra"』は、1人のアーティストのアーカイブを扱うことで、そのアーティストをより身近に知ることができました。これは魅力的で新鮮な経験でしたが、同時にとても困難なことでもありました。

そして次のステップは『Ubaldo - "Casa"』。新曲をリリースし、アーティストの「プロセス」をより身近に知ることでした。

それ以来、私たちはそれらの3つの作業(音源収集/アーカイブ作業/新曲リリース)でそれぞれ仕事をしながら、それらの工程を組み合わせることをしています。これは『Tarta Relena / Pack Pro Nobis』と『Agustí Fernández / Suite Nofres / Interseccions』のリリースの時のことです。

前回のリリース『Joseba Agirrezabalaga / Mikel Vega / Lepok』と次回のリリース『The Devil, Probably / The Devil, Probably』は新曲ですが、その後2つのリイシューとアーカイブ・アルバムのリリースがこれから控えています!


---新譜/リイシューのアーティストを選ぶ基準は何ですか?

Urpa i musell: リリースの選定に決まった基準はありません。まずは音楽を聴き、それについて具体的に話し合いをします。先に述べたように、私たちは固定観念を避け、何に対しても「受け入れる姿勢」を持っています。

Urpa i musell からリリースするすべての作品を愛してはいますが、「個人的な好み」と「一般的/文化的な面白さ」という、作品に対して客観的に距離を置いたアプローチを組み合わせつつ、うまく取り入れるようにしています。もしくは自分たちの感覚をはっきりさせるために、他の人に意見を求める事も厭いません。

もしその音楽が私たちにとっての両極の感覚(「個人的な好み」と「一般的/文化的な面白さ」)を満たすものであれば、そのプロジェクトに参加します。

私たちの方からアーティストやレーベルなどにコンタクトを取ることもあれば、アーティストやレーベルが私たちにコンタクトをくれることもあります。たとえそのアプローチされたほとんどと仕事ができなくても、新しい作品としての提案を受けると本当にうれしいです。私たちには他の仕事もあり、新しいリリースのたびにとても集中して仕事を進めるのは大変なことなので、プロジェクトの取捨選択はとても重要です。



---リリースのためのマスタリング/プレス/装丁に対するこだわり/注意点を教えてもらえますか。

Urpa i musell: 作業を進めていく方法として、常にプロフェッショナルな方々と仕事をすることが一番大事だと設立当初から考えています。簡単に他の人に依頼したり近道を見つけたりすることは、私たちにはふさわしくなかったんです。

昨今、音楽を聴くために「レコード」は必ずしも必要なものではありません。だからこそ、レコードにはお金を払うだけの価値がある「特別な魅力」が必要です。そしてそのレコードの魅力の大部分は、アルバムを完成させるためのあらゆる局面における「クオリティの高さ」だと考えます。

通常、レーベルとしてのアルバムの仕事はマスタリングから始まります。マスタリングに対する私たちのアプローチはどんどん変化してきました。最初は Yves Roussel がマスタリングを担当してくれました。彼は偉大でプロフェッショナルなマスタリングエンジニアで、しかもバルセロナに住んでいたので、直接スタジオを訪ねることができたことは非常に良いことでした。当時はラッカー盤(アナログレコード制作における一番最初に音を刻み込む、大元になる型材のこと)に問題があることが多く、何度もやり直さなければならなかったんです。これは大きな問題であり、ストレスでした。何時間も何時間もリスニング・チェックとディスカッションを繰り返しました。そのため次作では自分たちでラッカーをカットしてくれる他のマスタリングスタジオを探すことにしたんです。

そこでドイツの優良スタジオ『Dubplates & Mastering』と出会い、それ以来彼らと仕事をしていくことになります。彼らは正確で、優しく、オープンマインドです。D&Mの一員である Ruy Mariné が前作と次作のマスタリングを担当してくれて、私たちはその両方にとても満足しています。まだ準備中の最近のプロジェクトでは、サウンドの修復に重要な問題があり、同じくD&Mの一員である Kassian Troyer が重要な役割を果たしてくれました。Kassian が素晴らしい仕事をしてくれる前の時点では、アルバムのリリースは無理だろうとさえ思っていたのに、です。

レコードの製造は『Record Industry』で行われています。彼らの仕事にはとても満足しているので、レコード工場を変えたことは一切ありません。素晴らしい結果もさることながら、問題があったときにはいつも親身にサポートしてくれます。何か問題が起きても放っておかれないという安心感は、僕たちにとってとても心強いんです。

アートワークは非常に重要なので、最初から全面的に信頼できる人が必要でした。Pol Pérez は私たちのレーベルのすべてのデザインを手がけています。Pol はよく働き、アイディアが豊富で、ちゃんとした理由があれば複雑な作業の依頼も受け入れてくれます。私たちがうまくやっていけるのは、デザインはスクリーンの中だけにとどまらないということを皆が感じているからだと思います。彼の仕事の重要な部分は、物理的で触覚的なものです。各レコードの音楽性はすべて異なっており、新しいエージェントを示唆しているため、色んな人がアートワークで Pol と協力しながら作業しています。コラボレーションは挑戦的であり、柔軟性、想像力、謙虚さを必要とします。いくつかの共同作品を挙げると、『Pack Pro Nobis』は Clàudia Torrents との共同デザイン、『Lepok』は Joseba Agirrezabalaga の手描きのドローイングをもとに制作され、『Les músiques per a Albert Serra』では Marc Verdaguer(Molforts のメンバー)と全工程で綿密な打ち合わせを行い、Jordi Mitjà が外箱にアーティスティックなデザインを施しました。

また当初から、作品はバルセロナ(およびその周辺)で印刷することに決めていました。そうすることで、品質をよりよく管理することができるからです。レコードの物理性(必ずしもモノを意味しない)は私たちにとって非常に重要です。それぞれのレコードには独自のニーズがあるため、私たちはさまざまな技術や会社と仕事をしてきました。とはいえ、最近のプロジェクトの多くは L'Anacrònica と一緒に作ったものです。『Les músiques per a Albert Serra』のデザインが複雑で、柔軟性があり、探求とリスクを受け入れる人が必要だったため、彼らにアプローチしました。Arnau Estela(L'Aの創設者)が私たちの要求に完璧に応えてくれたので、とても幸運でした。その後、彼らの主な印刷技法である凸版印刷だけでなく、他の型破りな印刷工程も使ったりしながら、私たちは長い時間彼らと一緒に仕事をしました。

レコードをリリースする際の協力者や工程のリストは非常に長いので、ここでは通常の「協力者」(私たちは彼らが実際にレーベルの一部であると感じています)をいくつか挙げ、その他を例として追加したに過ぎません。もっと多くの人に言及しないのは申し訳ないと思っています。。そうしないとあまりに長くなりすぎちゃいます。各リリースに記載されている詳細なクレジットをご確認ください。ご一緒できたすべての方々に感謝します!



---リリースを楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

Urpa i musell: 次のリリースは、9月15日発売の「The Devil, Probably」です。ぜひ Urpa i musell のSNSをチェックしてください。

The Devil, Probably は、ロサンゼルス出身の Patrick Shiroishi(サックス)、バルセロナ出身の Àlex Reviriego(コントラバス)、Vasco Trilla(パーカッション)のトリオアンサンブルです。それぞれのシーンで若い世代の中心的存在である彼らは、即興の境界線の再構築を試みながら、活気に満ちた活動を展開しています。


ジャーナリストの Joshua Minsoo Kim が数週間前にそっと書いたアルバムの紹介文を要約して紹介します。


--"In 15 seconds the difference between composition and improvisation is that in composition you have all the time you want to decide what to say in 15 seconds, while in improvisation you have 15 seconds." -- Steve Lacy


--"In all its roles and appearances, improvisation can be considered as the celebration of the moment. It invites complete involvement, to a degree otherwise unobtainable, in the act of music-making." -- Derek Bailey


このような即興演奏に関する記述は、『The Devil,Probably』の作品を考察する際のヒントとなります。この6曲は同時に作られたわけではありません。3人でお互いにオーディオファイルを送り合い、その後に即興演奏を行ったのです。とはいえ、3人の演奏にはちゃんとした意図があり、その意図を感じるためには同時演奏のようなものは必要ないのです。

2020年に Patrick Shiroishi にインタビューした際、彼はアメリカ国内だけでなく世界中のミュージシャンと即興演奏ができることへの感謝を述べていました。"今までやったことのない演奏することで、自分自身で自分の演奏をさらに発展させることができる何かにつながります"と彼は言いました。彼にとって即興演奏とは「成長のための手段」なのです。この進歩は限界がなく、私たちの寿命を決める最初と最後の呼吸によってのみ縛られるのです。

Anthony Braxton は『Forces in Motion』の中で「即興演奏の意義は、各人が自分自身の "すべきこと"との関係を見つけること」であり、それは自己実現に不可欠であると述べています。彼はまた、自分自身を知るには他者を知ることが必要だとし、グループでの即興を家族の一員と例えています。アーティストに活力を与えるのは「知識と無知の微妙なバランス」です。したがって即興とは、この絶え間ない自己の拡大を利用するための単なる導管にすぎないのです。


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『音楽を聴くために「レコード」は必ずしも必要なものではありません。だからこそ、レコードにはお金を払うだけの価値がある「特別な魅力」が必要です。』

これはまさしくリリースやブランディング、僕らのような販売に至るまで全員が思っていることなのかと思います。録音された「音楽性」や「録音の良さ/音質の良さ」という普遍な部分をトピックとする方法、誰も知らない情報による「希少性」をクールに見せる方法、もしくは当時のデモトラックなどの未発表音源を収録する方法、などなどその作品をリリースすることが「意味のあるもの」とする工夫を施しながら、リリースするわけです。「想い」の強さがないと乗り越えられません。

ニューリリースの作品も楽しみですね。シレンシアでも入荷予定です。このレーベルの音楽性をもう少し紐解くために、今年の5月にブリストルのインディペンデントラジオ Nood Radio の chOOn!! という番組でオンエアされた Urpa i musell のミックスを貼っておくので、お時間ある時に。

それでは、また3回目で。